映画に登場した場所を訊ねてPart6/アポロ劇場

                                           Text by 中条 佳子 (N.Y.在住)
 クリントン元大統領がオフィスをオープンした事により、最近注目されているハーレム周辺。このエリアのランドマークとして存在するアポロ劇場については、数多くのミュージシャンやシンガーを世に送り出した音楽の殿堂として以前こちらのコラムで紹介しました。今回は映画に登場したスポットとしてアポロ劇場を取り上げてみました。アポロ未来計画も含めて、新たな情報をお伝えします。

 アポロ劇場といえばジャズ、ソウル、R&B系の音楽の殿堂というイメージを誰もが持っているはず。ナット・キング・コール、ジェームス・ブラウン、ジャクソン5、プリンスらが過去にパフォーマンスを行ったことが伝説的に語られ、多くのミュージシャンが憧れのステージとしてその舞台に立つ事を思い描く。

 でもこのステージに思い入れを持っているのは、ミュージシャンやシンガーのみならず。アポロはコメディアンたちの憧れの舞台でもあるのだ。7月にワンマンショーのツアーを行ったウーピー・ゴールドバーグもそのひとり。公開中の映画『Rat Race』(01)で、アカデミー助演女優賞作品『ゴースト ニューヨークの幻』('90)から11年ぶりにジェリー・ザッカー監督と仕事をしたウーピーだが、生舞台でのワンマンショーは15年ぶり。久々にコメディアンとしてツアーを行ったウーピーは、アポロの舞台だけにはどうしても立ちたかったと語っている。
 そういったコメディアンたちの思い入れを代表するかのような映画が、クリス・ロック主演の『Down to Earth』(00)だ。アポロのアマチュアナイトに出演するといつもブーイングで退場させられてしまうコメディアンが主人公。アポロのアマチュアナイトで優勝を目指すコメディアン志望の男が、ある日突然事故死してしまう。アポロの夢を捨てきれない彼は、大金持ちの白人オヤジの身体を借りてこの世に戻ることが出来るが…。笑いありロマンスありのコメディだが、アポロ劇場がいかに人々の憧れであるかを知ってから観ると、ますますおもしろく思えてくる作品だ。

 映画のラストはアポロの舞台に立つクリス・ロックのオン・ステージ。HBOの『クリス・ロック・ショー』や『サタデー・ナイト・ライブ』で磨いたギャグを映画の中で思う存分楽しめる。NY出身のクリス・ロックもかつてアポロに憧れて育ったひとりだろう。
 今後のアポロ劇場だが、125丁目を東に連なる閉館中の映画館、ヴィクトリア5までの店舗を取り壊し、新装拡張する計画。ランドマークであるアポロが、2つのステージを持つシアターとして生まれ変わることになる。1913年以来様々なエンターテイナーを世に送り出してきたアポロは、途中閉館された時代もあったが、人々の憧れの舞台である限り存続し、今後も数々の伝説を生み出していく事だろう。

◆アポロ劇場 The Apollo Theatre

253 West 125th Street
New York, NY 10027


<<戻る


東宝東和株式会社