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「スモーキン・エース」
台風が来たり、残暑だったりと9月になってもまだ秋らしくない天候です。そんな時には、スカッとするアクションでも見て気持ちをリフレッシュさせて乗り切るのもよいでしょう。
「NARC」で注目されたジョー・カーナハンの監督第3作でこの春に公開された作品。意欲的な内容に反して、あまり話題にならなかったような気もするのでとりあげておきたい。
「4年間映画を撮らなかったから、本作にはやみくもなエネルギーがあふれている」とDVDの音声解説でジョー・カーナハンが言っているが、まさにそのとおりで、ジョー・カーナハンは「スモーキン・エース」で、今までにない種類の映画を作ろうと挑戦している。「M:I:Ⅲ」の監督を5ヶ月のロケハンにも加わったうえに降りたのを報じられた後に、カーナハンはすぐに以前から撮りたかった企画である今作にとりかかっている。
安易にタランティーノ作品と比べる向きがあるが、銃撃シーンのブラックユーモアも含む描き方や、全体の設定が「トゥルー・ロマンス」のクライマックスのようにホテルで多くの殺し屋や警察が鉢合わせするのを想起させるからだろう。だが、それは違う。カーナハンは、もう一歩進んだことをしようとしていて、昔ながらの殺し屋が現れる映画をいかに面白く観せるかに工夫を凝らしているのだ。そこにはプロットよりもカーナハンは人物描写、いわゆるキャラクター・スタディを重視している。カーナハンも今作がタランティーノ作品と比較されると「無理矢理に何か似た雰囲気がある作品を挙げれば「ジャッキー・ブラウン」ぐらいだ」と言っているが、「ジャッキー・ブラウン」がタランティーノ作品で一番、キャラクター・スタディを行っている作品であることからも、その点は明らかだ。
音楽の使い方も面白く、プロディジーなどの今のバンドに混じって、「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」(66)のエンニオ・モリコーネの曲が流れたりするのが、映画マニアのジョー・カーナハンらしい。後、音楽ファンに何と言っても興味深いのが、アリシア・キーズとコモンの出演だ。共にギャングスターと言ってもいい役柄だが、本人たちがやっている音楽がギャングスターとは程遠いイメージのコンシャスな音楽なのだ。
また、カーナハンの弟のマシュー・マイケル・カーナハンは最近になって急に頭角を現してきた脚本家だ。「スモーキン・エース」にも出演しているピーター・バーグが監督した「キングダム/見えざる敵」のオリジナル脚本のみが素晴らしい脚本家で、他にもロバート・レッドフォード監督・出演で、メリル・ストリープ、トム・クルーズも出演する「Lions for Lambs」(こちらもオリジナル脚本)があり、この作品も9.11後にアフガニスタンを舞台にしたポリティカル・アクションだ。他にもBCCのテレビシリーズをブラッド・ピット主演で映画化する「State of Play」や、意外にも兄と初めて組むエルロイの「White Jazz」の映画化の脚本などが次々と控える新進気鋭の脚本家だ。一つの映画から関連するさまざまな映画を観るのも、映画の一つの楽しい見方なのでできたら実行してほしい方法だ。
TEXT BY わたなべりんたろう
【著者プロフィール】
映画・音楽・ファションのライター。雑誌「Elle Japon」、「映画秘宝」、「TV Bros」、「ミュージック・マガジン」、「CDジャーナル」などで執筆中。
ここ数年の作品では「トゥモロー・ワールド」をこよなく愛す。
2007年09月10日 16:19
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