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「BRICK‐ブリック‐」
寒さも本格的になってきたこの頃ですが、温かい部屋で今年公開された映画の中でも屈指の監督デビュー作を見て知的な興奮を味わってみてください。興奮で身体があたたまる効果もあるかも。
「BRICK‐ブリック‐」は、ライアン・ジョンソン監督の注目すべきデビュー作だ。往年のノワール映画を現在のハイスクールで展開させた野心作であり、分かりやすく例えれば、ジョン・ヒューズ映画の世界に「チャイナタウン」の要素が入り込んだようなものである(日本よりに例えれば「花より男子」の世界にレイモンド・チャンドラーの要素が入ったようなものか)。
筆者が今作を知ったのは、06年5月に公開されたときのイギリスのメディアの高評価だった。こういう小品ながら素晴らしい作品は「レザボア・ドッグス」や「クラークス」などと同じく(今年の作品では「ウェイトレスおいしい人生のつくりかた」も該当する)、サンダンス映画祭でまず評価されるものだが、今作も05年のサンダンス映画祭でセンセーショナルを巻き起こし、審査員特別賞を受賞した。その後、ヴェネツィア国際映画祭にも出品され、シカゴ映画批評家協会賞などいくつもの賞も受賞した。
「BRICK‐ブリック‐」で特筆すべき点は、ライアン・ジョンソン監督の脚本の素晴らしさだ。台詞、構成、キャラクター描写の全てが最近の作品の中でもズバ抜けている。予算的には決して恵まれた作品ではなく、家族や親類などからかき集めた資金を基に製作された。
だが、予算と関係ない「自分なりの面白い映画を作ってやる」というライアン・ジョンソン監督の気迫が随所に感じられるのだ。編集のカッティングの絶妙さ(ホラー映画「MAY―メイー」などの編集も手掛けている)、カメラワークの面白さが秀逸なのは、特典のメイキングでも語られているが、資金がなく映画が作られていない期間に弟などの仲間と何度も撮影を決めた場所でリハーサル成果なのだろう。全てのカットをイヤというほど試して撮影に臨んでいるのだ。
出演俳優では、悪役のルーカス・ハースが「刑事ジョン・ブック/目撃者」の子役出身で一番知られているぐらいだが、若い俳優陣の演技は誰もが素晴らしい。悲劇のヒロインを演じるエミリー・デ・レイヴィンは、TVシリーズの「LOST」、「ロズウェル」やホラー映画の秀作「ヒルズ・ハブ・アイズ」などに出演しているが、日本ではそれほど知られていないし、主役のジョセフ・ゴードン=レヴィットもこれからの俳優で「BRICK‐ブリック‐」で注目されて、今後の出演作が続々待機している。中でも主演の「The Lookout」(07)は「BRICK‐ブリック‐」にもつながるようなクライム・スリラーで、「アウト・オブ・サイト」の「マイノリティ・レポート」の脚本家で知られるスコット・フランクの監督デビュー作で、高い評価を得ている。
ライアン・ジョンソン監督の次回作「The Brothers Bloom」はエイドリアン・ブロディ、レイチェル・ワイズ、菊地凛子とアカデミー賞受賞/ノミネートの俳優を揃え、コンゲーム(詐欺)を巡るクライム・コメディだと伝えられている。ライアン・ジョンソン監督は、96年の短編「Evil Demon Golfball from Hell!!!」を見ると、「地獄から来たゴルフボール」をモノクロでゴシックムードたっぷりながらシュールに描き、コメディも撮れることが分かっているので期待の新作である。なお、DVDには特典として、上記のメイキング以外にもキャストオーディションや短編「Origami Master」などが収録されている。
TEXT BY わたなべりんたろう
【著者プロフィール】
映画・音楽・ファションのライター。雑誌「Elle Japon」、「映画秘宝」、「TV Bros」、「ミュージック・マガジン」、「CDジャーナル」などで執筆中。
ここ数年の作品では「トゥモロー・ワールド」をこよなく愛す。
2007年11月13日 20:41
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