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映画の予告編が劇場から消える? 「表現する」権利と「見ない」権利
映画の内容が過激なために、本編が上映中止になることは珍しくない。最近ではキリストの生涯を描いた「パッション」が、幾つかの劇場で観客のブーイングにより上映を取りやめている。しかし、予告編が上映中止になるというのははじめてのケースかもしれない。
在りし日のワールドトレードセンター
ニューヨークのある劇場が、観客の苦情を受けて「ユナイテッド 93」の予告編を上映中止した。ユナイテッド航空93便は、2001年、米東海岸を襲った同時多発テロで、ムスリムの国際武装勢力アルカイダにハイジャックされた4機のうちの一つである。他の3機がテロリストに操縦を支配され、世界貿易センタービル、ペンタゴンへ突入した惨劇の中で、同機は唯一、計画されていた目的地に突入せず、ペンシルバニア州郊外に墜落した。旅客機に乗り合わせた乗客、乗務員は、計り知れない恐怖に打ち勝ち、テロリストのコックピットへの侵入を妨げたためだと伝えられている。
この悲しくも雄雄しいドラマを再現した同作品の予告編を非難する観客は、被害者の遺族や関係者なのだろうか。作品の配給元ユニバーサル・ピクチャーズは、遺族から事実に基づく誠実な描写に感謝を示す手紙がいくつも寄せられたと語る。予告編を見せられて不快な思いをしているのは、どうやら一般の観客のようだ。
予告編が映画館によって上映中止されるケースは過去にもあり、観客の苦情で劇場にディスプレイされているポスターを撤去されたこともあるという。映画に限らず、テレビでもVチップの導入により、番組製作側がレイティングした番組を視聴者の意思で視聴する・しないを選ぶことができる。インターネットのサイトにもペアレント・コントロールを採用し、親が子どもに見て欲しくないコンテンツを表示しないよう設定できる時代だ。これらの精度が表現の自由を侵害しているという意見は少なくないが、視聴する側にも見たくないものを避ける権利は当然にある。
映画館の予告編の場合、観客はすでにスクリーンの前に座っているのだから、好ましくない映像を見せられても拒否することはできない。だからといって予告編の上映を中止するなら、予告編もレイティングで格付けし、制限の厳しい内容の作品は早めの時間に公開し、その後全ての観客用に向けた作品を上映するのはどうか。そうすれば、過激な表現の予告編は劇場から姿を消し、一方で、視聴に選択の自由がゆだねられているインターネット上では、自分の意思で選んだ人だけ見ることができる過激なバイラルCMがより盛んになるだろう。
2005年の「ミュンヘン」、「シリアナ」など、これまでの史実に基づいた惨事を描いた映画は他に多数ある。「ユナイテッド 93」が予告編の時点でこれほど非難を受けるのは、まださほどの時間が経っておらず、事件によってショックを受けた人々のトラウマが癒えていないことが一つの理由だろう。読者のみなさんの中にも、事件当日、米在住の知人の安否を気遣い国際電話をかけた方もいるかもしれない。
見ない自由は守られるべきだが、作品の品質を無視して劇場から予告編を葬ることはあまりにも悲しい。関係者には、映画が表現の自由を約束されている芸術作品であることを改めて確認し、表現者と観客双方の権利が守られるような良案を求めたい。
TEXT BY 尾崎佳加
在りし日のワールドトレードセンター
この悲しくも雄雄しいドラマを再現した同作品の予告編を非難する観客は、被害者の遺族や関係者なのだろうか。作品の配給元ユニバーサル・ピクチャーズは、遺族から事実に基づく誠実な描写に感謝を示す手紙がいくつも寄せられたと語る。予告編を見せられて不快な思いをしているのは、どうやら一般の観客のようだ。
予告編が映画館によって上映中止されるケースは過去にもあり、観客の苦情で劇場にディスプレイされているポスターを撤去されたこともあるという。映画に限らず、テレビでもVチップの導入により、番組製作側がレイティングした番組を視聴者の意思で視聴する・しないを選ぶことができる。インターネットのサイトにもペアレント・コントロールを採用し、親が子どもに見て欲しくないコンテンツを表示しないよう設定できる時代だ。これらの精度が表現の自由を侵害しているという意見は少なくないが、視聴する側にも見たくないものを避ける権利は当然にある。
映画館の予告編の場合、観客はすでにスクリーンの前に座っているのだから、好ましくない映像を見せられても拒否することはできない。だからといって予告編の上映を中止するなら、予告編もレイティングで格付けし、制限の厳しい内容の作品は早めの時間に公開し、その後全ての観客用に向けた作品を上映するのはどうか。そうすれば、過激な表現の予告編は劇場から姿を消し、一方で、視聴に選択の自由がゆだねられているインターネット上では、自分の意思で選んだ人だけ見ることができる過激なバイラルCMがより盛んになるだろう。
2005年の「ミュンヘン」、「シリアナ」など、これまでの史実に基づいた惨事を描いた映画は他に多数ある。「ユナイテッド 93」が予告編の時点でこれほど非難を受けるのは、まださほどの時間が経っておらず、事件によってショックを受けた人々のトラウマが癒えていないことが一つの理由だろう。読者のみなさんの中にも、事件当日、米在住の知人の安否を気遣い国際電話をかけた方もいるかもしれない。
見ない自由は守られるべきだが、作品の品質を無視して劇場から予告編を葬ることはあまりにも悲しい。関係者には、映画が表現の自由を約束されている芸術作品であることを改めて確認し、表現者と観客双方の権利が守られるような良案を求めたい。
2006年04月14日 20:02
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