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Virginia Tech. 事件:マスコミから広がる余波

現地時間4月16日午前、ヴァージニア州で起こったVirginia Polytechnic Institute(ヴァージニア工科大)の惨劇。人々に強い衝撃を与えたこの痛ましい事件は、発生直後からテレビやインターネット上で連日情報が飛び交っています。マスコミの報道は日に日に過熱し、その内容は二転三転。様々な憶測がささやかれる今回の事件を、アメリカ3大ネットワーク各社がどのように報道しているのか、またそれを全米の国民がどう受け止めているのかをお伝えしていきます。


アメリカの銃の品評会。大人から子供までが訪れる。
「近代米史最悪」とうたわれることになったこの度の事件は、アメリカの銃社会の現状を改めて世界に露呈するものとなりました。第一報が流れた直後から、本事件を99年にコロラド州で起こったコロンバイン高校銃乱射事件と並行させて報道するマスコミが目立っています。また、その事件を題材にし、賛否両論を巻き起こしたマイケル・ムーア監督の映画「ボウリング・フォー・コロンバイン(2002年:邦題)」の内容を改めて取り上げる記事も。先の事件から8年余りが経った今、更に多くの死傷者を出すこととなった今回の事件。容疑者のような20代の若者でも容易に銃を購入できる環境を重く見て、銃器撤廃の声が上がっています。また一方では、すでに流通している拳銃・ライフルなどの数を考慮すると、そのような動きに果たしてどこまで効果があるのか、疑問視する人々も少なくありません。「銃が人を殺すのではなく、銃を持ったその人間が人を殺すのだ。」インターネット上のフォーラムに、一般の方から書き込まれたひとことがひどく印象に残りました。

そして、この度の事件を起こした容疑者の背景が、更なる論争を巻き起こすことに。幼少期に家族とともに韓国からアメリカへと移住して来た容疑者は、外見は完全なアジア人。このことで、韓国人留学生やコリアン・アメリカンに対する風当たりが強くなるのではないかと危惧されています。2001年に起こった9/11事件が引き合いに出され、当時のアメリカ国内における中東・アラブ系の人々に対する誹謗中傷や傷害事件など、それらに似た現象が起こるのではないかという懸念も。また、コリアン・アメリカンであるジャスティン・リン監督の”Better Luck Tomorrow”(日本未公開:アメリカの高校に通うコリアン・アメリカン達を描いたバイオレンス作品)などの映画にも見られる「アジア人に対するステレオタイプ」を増長させるかのように、容疑者の私生活や人柄を単なる憶測で報道するマスコミも見受けられます。こういった過剰な報道を受け、多人種が生活するアメリカにおいて今回の事件が飛び火しないよう、マイノリティ・コミュニティーや各人種団体は注意・警戒を促しています。

事件の起こった月曜日以来、各TV局は予定していた番組を変更。翌日には、現地で行われた追悼式に密着、特別番組が放送されました。連日のプライムタイム・ニュースは放送時間が延長され、コマーシャルもごく限られた本数のみとなっています。今回の事件に対してCNNは、現場に居合わせた学生が携帯電話で撮ったビデオをホームページに掲載。銃声が収められた映像に、一日で200万件以上ものアクセスが集中しました。また、CBSの通信員がいち早く容疑者の身元を割り出し、一夜開けてのスクープ報道に。そして水曜日には、NBC宛てに容疑者本人から郵便物が届いていたことが判明。それには自らが撮影したと思われる写真やビデオ、犯行予告と声明文が含まれており、FBIに提出した後、ただちに独占公開となりました。このような動きの中、余りに残酷な映像ばかりが流れていることに、子供たちへの影響を懸念する人々も多くいます。悲しみに暮れる人々の感情を煽るかのような報道に合わせ、昨今の映画やビデオゲームに見られる残忍な描写、直視しがたい映像に抗議の声が上がっています。

ところで、ハリウッドでは今回の事件をどのように受け止めているのでしょうか。よく知られていることですが、銃の規制に絶対反対の姿勢をとる団体、ナショナル・ライフル・アソシエイション(NRA)の会長は、古くは「ベン・ハー」から「猿の惑星」まで、歴史的作品に主演した往年のアクション俳優、チャールトン・ヘストン。映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」でマイケル・ムーアにやり込められていたあの人です。この団体は、銃を持つのは米国人の基本的権利、という憲法修正第二条を盾に、銃規に反対を唱え続け、こうした事件が起こるたびに批判を浴びています。会長のヘストン氏への風あたりはハリウッドでも強く、リベラル派の俳優から攻撃されることもしばしば。ただし、銃とアクション、はハリウッドから切り離せないアイテムである事も事実。暴力を助長している、という批判も多いハリウッドとしては、なかなか難しい立場です。

この度のような事件は未然に防ぎづらいものであり、決定的な防御策には未だ辿り着いておらず、また果たして答えがあるのかどうかも見えてはいません。アメリカ国内のみならず、世界中の人々が胸を痛めている今回の銃乱射事件。過剰報道などによって、この事件の余波が新たな事件につながることのないよう願ってやみません。改めて、被害者の方々のご冥福をお祈りします。


TEXT BY アベマリコ

2007年04月19日 15:57

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