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日本の巨匠がLAに上陸:Master MIZOGUCHI展

すでに夏を思わせるような快晴続きのロサンゼルス。夏休みに向けて、大作映画が次々と封切られています。海賊が大暴れしたり、12人が13人になったり、数々の続編で賑わっている近頃のBox Office。そんなシリーズものにちょっぴり食傷気味…、かと思われるハリウッド在住の自称映画マニアにとって、かなり喜ばしい朗報が。LA屈指のコレクションを誇る美術館LACMA (Los Angeles County Museum of Art)では、日本が誇る溝口健二監督の回顧展を開催中。「Seven Masterpieces by Kenji Mizoguchi」と銘打たれたこのプログラム、日本のみならず世界を代表する映画監督が遺したMasterpiece=傑作から、選び抜かれた7本を上映しています。


会場となったモダンアート美術館
35mmフィルム上映用の施設を完備、新旧の映画監督による作品を常に上映しているLACMAだけあって、今回のセレクションもなかなかマニアック。数ある溝口作品の中から、彼独自のスタイルが幅広く堪能できるチョイスとなっています。まず、6月8日の初日を飾ったのは「雨月物語 (1953) / Ugetsu Monogatari (洋題) 」。言わずと知れた、溝口映画の代表作のひとつです。美しい船上のシーンが心に焼きついている方々も多いはず。この作品に合わせ、前年に公開された「西鶴一代女 (1952) / Life of Oharu」と翌年の「山椒大夫 (1954) / Sansho the Bailiff」を上映。ちなみに、これらの作品は3年連続でヴェネツィア映画祭に入賞しており、未だ日本では破られることのない偉業として語り継がれています。

溝口監督の代表作「雨月」のポスター

1930年代に戻って選ばれたのは「祇園の姉妹 (1936) / Sisters of the Gion」と「残菊物語 (1939) / Story of the Late Chrysanthemums」。溝口作品を語るときにはずす事ができない、華やかで活き活きとした女性描写、心温まる人間物語が楽しめる2本となっています。40年代からは「歌麿をめぐる五人の女 (1946) / Utamaro and His Five Women」が登場。こちらも、溝口監督お得意の個性あふれる女性達が描かれます。嫉妬うずまく男女関係が見もの。さすが刃傷沙汰をご自身で経験しただけあって、溝口監督が表現するドロドロとした情交はやたらとリアルです。

そして、最終日に上映が予定されるのは「赤線地帯 (1956) / Street of Shame」。日本のなだたる女優たちが競演する、溝口監督の遺作です。売春防止法というタイムリーなテーマを取り込んだ本作は、当時の世相が色濃く反映された1本。登場する女性それぞれの理想と現実は、50年以上経った今日でも思わず感情移入してしまうこと受け合い。小気味良く展開するストーリーに、パワフルかつ繊細な女性像が描き出されています。

この回顧展は、今月23日まで。往年の名作を大画面で鑑賞できるだけでも感激ですが、今回は新品の35mmフィルムでの上映となっていて、その感動もひとしお。観客を飽きさせない豪快なカメラワーク、細部にまでこだわった舞台装飾、匂い立つような女性の色気、時代物・現代劇を問わず人々に訴えかける人間ドラマ、エレガントかつ大胆なロングテイク…などなど、様々な角度から楽しめる溝口作品。梅雨に入った日本でお過ごしの皆さんも、お家でゆったりと溝口映画の鑑賞会はいかがでしょうか?


TEXT BY アベマリコ

2007年06月21日 19:30

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