アメリカでは、主に6月が卒業シーズン。全米屈指の映画学校American Film Institute (AFI / アメリカ映画協会) コンサバトリーにおいても、先週10日に卒業セレモニー/学位授与式が行なわれました。映画業界の生ける「伝説」が続々と来場した当日の模様をお伝えしていきます。
スピーチ中のクリント・イーストウッド
ハリウッドを見下ろすグリフィス・パークに隣接したAFIコンサバトリーは、1967年設立のAFI/アメリカ映画協会が1969年に併設した映画制作専門の付属大学院。ジョン・カサヴェテス、テレンス・マリック、デヴィッド・リンチといった蒼々たるフィルムメイカーを輩出しており、今日ではコロンビア大、NYU、USC、UCLAの映画学科に並ぶ5大名門フィルム・スクールに数えられています。
校内の卒業セレモニー特設ステージ
6つの学科 (監督/製作/撮影/編集/美術/脚本) には例年数千人もの出願者が集いますが、どの専攻の枠も30人以下という少人数制。狭き門をくぐり抜けた合格者達は、AFIが誇る著名な講師陣のもとでプロ顔負けの映画制作を学びます。入学1年目の「サイクル・プロジェクト」では、20分以内の短編フィルムを年間で3本製作。それらの出来栄えによって、AFIの基準に満たない生徒は退学を命じられることもある厳しさです。そして2年目を迎えることが出来た生徒のみ、卒業制作となる「シーシス作品」に着手。こちらは本場ハリウッドと同様、こと細かな業界ルールと制約に縛られながらプロダクションが進められ、上限6万5千ドルの制作費も学生達によって集められます。ホッとひと息つく暇さえ無さそうな、怒涛の2年間。こうしてフィルムメイキングにどっぷりと浸かった彼らは、今後のハリウッドを担う精鋭としてAFIから巣立っていきます。
式典後に挨拶を交わすシャーリーズ・セロン
1989年より、映画界の功労者に授与されているAFI名誉学位の歴代受賞者には、シドニー・ポラック、ジーナ・ローランズ、ジョン・ウィリアムズ (作曲家)、ロジャー・エバート (映画評論家)といった豪華な面々が名を連ねています。本年度の受賞者は、俳優業はもちろんのこと、監督/製作に加えて作曲家としての地位をも築いたクリント・イーストウッド。約2時間の式典では終始リラックスした様子で、壇上からフランク・ピアソン (脚本家/「暴力脱獄 (1967)」「狼たちの午後 (1975)」)やジョン・アヴネット (映画監督/脚本家/製作者/「フライド・グリーン・トマト(1991)」「88ミニッツ (2007)」) らゲストとともに、卒業生達にはなむけのスピーチを贈っています。また、一般来賓席にはアカデミー賞獲得女優、シャーリーズ・セロンの姿も。ラフなジーンズにほぼスッピンでありながら別格の「美人オーラ」を放っており、来場者の視線が集中していました。どうやら、今期卒業生の中に知人がいた模様です。
編集学科の講師より卒業証書を受け取る加藤閑さん
そして当日の主役=120余名の2009年度AFI卒業生の中に、唯一の日本人生徒を発見!名古屋出身の加藤閑 (のどか) さんは、コロラド大学を卒業後に日本の某局にてエディターとして活躍されていました。再度の渡米を志した2007年には、音楽業界の重鎮であり、ハリウッド/日本映画業界に強い影響力を持ちながらAFIにも多大な貢献をされている依田巽氏より奨学金を獲得。同年8月末に、晴れてAFI編集科への入学を果たしています。編集専攻の1年目は他科と違い、サイクル・プロジェクト6本!に参加しなければならないのだそう。初年度は身体的に、2年目は精神的な苦労が多かったと振り返っていらっしゃいました。それでもやはり、学科の講師や卒業作品のメンター /アドバイザー、学友達との共同作業を通して培ったものは、掛け替えのない収穫だとか。今年いっぱいはAFIに在籍して、エディターとポストプロダクション・スーパーバイザーを兼任するシーシス作品、”TAKEO (オマール・サマド監督/原題)”に携わっていくそうです。
また、先日東京にて行なわれたShort Shortsフィルムフェスティバル&アジア2009において、優秀賞ジャパン部門/東京都知事賞に輝いた「ハーフケニス /Half Kenneth」の落合賢監督、プロデューサーの兼原麻耶さんもAFIの卒業生であり、本作はお二方のシーシスになった短編映画でした。世界選りすぐりのフィルムメイカー達が肩を並べる学び舎、AFI出身の皆さん。今後も、活躍の場がよりいっそう広がっていくこと間違いなしです。
毎秋ハリウッドにて開催される映画祭AFI Festや、1998年よりアメリカ映画生誕100周年記念にスタートした「AFI 100 Years…」シリーズに並び、今週19日には第37回ライフ・アチーヴメント・アワードの模様が放映されるAFI/アメリカ映画協会。これからも、AFIコンサバトリーからは卓越したフィルム・アーティスト達が生まれていくことでしょう。
今回のセレモニー/CommencementやAFIの概要は、下記のリンクからご覧下さい。
【AFIホームページ】
TEXT BY アベマリコ
毎週木曜日更新