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イスラエル=フランス発『ジェリーフィッシュ』
美しい海辺の街を舞台に語られる3つの物語。伝えたくても言葉にできない、それぞれが心に秘めた想いを、繊細なカメラワークとカラフルな色使いによる美しい映像で紡ぎ出していきます。ピアノやチェロを多用した音楽も印象的な本作は、2007年のカンヌ映画祭ではカメラ・ドール(最優秀新人監督賞)を受賞しました。
■STORY
結婚式場で働く若い女性バティアは、浮輪をつけたまま何もしゃべらない不思議な女の子に海辺で出会い、週末だけ預かることに。
花嫁のケレンは結婚披露宴の最中に骨折し、新婚旅行を断念して、近場の海が見えるホテルに滞在。そこで花婿は謎めいた女性に出会い…。
フィリピンから出稼ぎに来たジョイは一人暮らしで気難しい老女マルカのヘルパーになり、やがてマルカと娘ガリアの冷え切った親子関係を溶かしてゆく。寄せては返す様々な人生の波に揺られ、海に漂うしかない人々。それでも誰もが切ない思いを胸に抱えながら、かすかな希望の光を求めて「今」を生きてゆく…。
■夫婦の共同監督でカメラ・ドール(最優秀新人監督賞)を受賞!
監督はイスラエルが誇る人気作家エトガー・ケレットと、やはり詩人で劇作家でもあるシーラ・ゲフェン。二人は実生活でもパートナーで、初めて長編を手掛けた本作で2007年のカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(最優秀新人監督賞)を受賞しました。
脚本はシーラが自らの体験を、多くの登場人物に様々な形で投影しながら完成させたものです。例えばシーラは小さな頃のエピソードをこう語っています。「両親が海岸に連れて行ってくれましたが、私に浮き輪を付けて海に入れた後に激しい喧嘩を始めて、私は忘れ去られてしまったのです。今でもこの時の不安で怖い思いをよく覚えています」と。
このエピソードから、劇中の浮き輪をつけた不思議な女の子が誕生し、そして登場人物たちはみんな誰かに忘れ去られたような、誰かが探しに来てくれるのを待っているような気持ちを抱いた描かれ方をしています。
そのようなせつない想いを抱えながらも、「今」を生きていく人たちの姿を美しい映像で切り取った本作には、不思議なやわらかさ、温かみが漂います。
■映画から観るイスラエル
●「どうしてフィリピン人に任せたの」~社会を支える外国人労働者
海辺の街を舞台に語られる3つのエピソードのうち1つは、老女マルカのもとへフィリピンからヘルパーとしてやって来た女性、ジョイの物語。言葉のコミュニケーションに少し不自由がある様子を見て、老女の娘ガリアは「どうして彼女を選んだの?」という疑問を口にします。
実際のイスラエルでも、ここ10年ほどフィリピン、タイ、中国などのアジア諸国から出稼ぎにやって来る外国人労働者が急増しているそうです。ほとんどのフィリピン人の母親たちは、自分の子供を故郷に残して、他人の親の世話をしにイスラエルにやって来ます。
監督のシーラの祖母も、実際にフィリピン人が世話をしていたそうですが、共に過ごすうち2人はとても仲良くなり、祖母は彼女によって人生観にまで変化をもたらしたそうです。
■DATA
3月15日(土)より 渋谷シネ・アミューズほか
全国順次ロードショー
2007年/イスラエル=フランス/82分
配給:シネカノン
(c) 2007 - Les Films du Poisson / Lama Productions LTD / ARTE France Cinéma
監督:エトガー・ケレット/シーラ・ゲフェン
出演:サラ・アドラー/ニコール・レイドマン/ミリ・ファビアン ほか
2008年03月14日 22:32
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