TEXT BY 中条佳子(N.Y.在住)

 アーバンワールド・フィルムフェスティバル2001

 世界で最大のマイノリティのための映画祭、アーバンワールド・フィルム・フェスティバルが8月1日から5日まで開催され、今回もパワフルで興味深い作品が数多く上映された。今年で第5回目を迎えたアーバンワールド・フィルム・フェスティバルの模様を、昨年に引き続きレポートします。
■バックナンバー:連載15<アーバンワールドフィルムフェスティバル2000> 20000810.html
 1997年以来、長編、短編合せて250以上のアフリカン・アメリカン、ラテン、アジア系フィルムメーカーの作品を上映してきたアーバンワールド・フィルム・フェスティバル。今回の出品は長編部門20作品、短編部門21作品、ドキュメンタリー部門10作品、ラテン系部門9作品、アジア系部門6作品となっている。会場はハーレムにあるマジック・ジョンソン・シアターとタイムズスクエアにあるヴァージン・メガ・ストア内の映画館ステイト・シアターの2ヶ所で行われ、作品数の多さと共に規模の拡張を窺い知れる。
 現在『Baby Boy』(01)がヒット中、最年少で、またアフリカン・アメリカンでは初めてアカデミー賞候補となったジョン・シングルトン監督を迎えてパネルディスカッションが企画されるなど、上映作品だけでなく映画祭としての内容も充実。期間中、毎日マンハッタン内のクラブでアフターパーティが行われるなど、ネットワーキングの場も増え、マイノリティ系フィルムメーカーの地位向上に力が尽くされている。また特別招待作品として、ジャッキー・チェン、クリス・タッカー主演、ブレット・ラトナー監督『ラッシュアワー2』(01)を上映。注目を集めるための作品もきちんと押さえてある。

 映画界の中でまだまだ地位が確立されていないマイノリティ系に、スポットライトを当てるという目的のこの映画祭。主催者のステイシー・スパイクスは「マイノリティ系が映画界の中でここまで辿り付くには長い道のりだったが、これから先は長い。現在の問題点は、マイノリティ系が強い経済力を持つポジションにいないとうこと。才能や想像性ましてや資本について云々しているのではない。私たちに足りないのは、意思決定のパワーなのだ」と提唱する。
 良い映画を製作、あるいは配給するためには、人々の気持ちを動かさなくてはいけない。アーバンワールド・フィルム・フェスティバルの数々の素晴らしい作品上映、パネルディスカッション等が、人々の意思を動かす起動力となるに違いない。この映画祭の出品作品の中から注目されてメジャー配給された作品は数多い。昨年のベスト作品賞『ONE WEEK』(00)はこの夏ロードショー予定。今年はどの作品がメジャーデビューするのか、これから先が楽しみだ。
 個人的に一番印象に残ったのは、ベスト観客賞を受賞したウィリアムス・ジェニングス監督による『Harlem Aria』(01)。知的障害者でありながらオペラの才能を持つ、ハーレム出身の青年を主人公にしたコメディタッチでハートウォーミングなストーリーだ。主演のガブリエル・カシアスが純粋で騙されやすい青年を好演。デモン・ウェイアンズ、マリク・ヨバが脇を固めている。

 ブラック・フィルムといえば、お決まりのギャングスタ、フッド、刑務所モノが多いが、その手の映画特有のヴァイオレンス場面には観客もいささか食傷気味だと思える。オペラ好きの青年が主役というのは新鮮である上、心温まるストーリーも魅力。観客賞という発表に、客席からアカデミー賞に値するよという声も上がった。メジャー俳優が出演してるだけに、今後一般上映される可能性に期待したい。
『Harlem Aria』(01)
左>>ウィリアム・ジェニングス監督
中央>>クリスチャン・キャマーゴ(助演俳優)
右>>ガブリエル・カシアス(主演俳優)

<ベスト作品賞>
『Lift』(01)/デマン・ディビス&カリ・ストリーター監督

<ベスト観客賞>
『Harlem Aria』(01)/ウィリアムス・ジェニングス監督

<ベスト監督賞>
クレイグ・ロス・ジュニア監督/『Bluehill Ave.』(01)

<ベストショートフィルム賞>
『Life & Times of Little Jimmy B.』(00)/アリソン・マクドナルド監督

<ベストドキュメンタリー賞>
『Rasin'Kane; a Rapumentary』(00)/アリソン・デューク監督


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