INTRO
DUCTION

幸せな家庭を持つ紳士が、
ある日ひとりの女性に心捉われた

人を愛する情熱は、アスファルトの隙間から生える名もなき草のように、雨風に打たれても、踏まれても、強く、しなやかに、決して枯れて絶えることはない…。出会いは偶然だった。歯科医のマルグリットはある日、街で引ったくりに遭いバッグを持ち去られる。駐車場の片隅に捨てられた、バッグの中にあった財布。拾ったのは、初老の紳士ジョルジュ。中に入っていたマルグリットの小型飛行機操縦免許の写真を見て、彼の中で何かが弾けた。警察に届け、マルグリットの元に戻った財布。彼女がお礼の電話をかける。ジョルジュが、妻と子供たちと食卓を囲んでいる最中、電話のベルがなった。「お礼を」、「それだけ?」、「他に何を?」、「"会いたい"とか」、「必要を感じないわ」、「がっかりだ」。こうして始まったふたりの関係は、周囲を巻き込みながら、思いもよらない方向に転がり始める…。

89歳にして才気あふれる
アラン・レネ芸術の到達点

『二十四時間の情事』、『去年マリエンバートで』…、1948年にデビューして以来、その革新的手法で、映画史に数々の名作を残してきたフランスの巨匠アラン・レネ監督最新作は、芳醇なワインのごとき、大人のための恋愛映画。しかし凡百のそれとは一線を画し、一筋縄では行きません。観る者は、サスペンス溢れる謎めいたオープニングにワクワクし、なかなか噛み合わない二人の想いから生まれる喜劇的状況にクスリと笑い、妄想を募らせる主人公にハラハラし、その後のシュールな展開に茫然と息を呑むことになるでしょう。御年89歳とは思えない瑞々しい若々しさに満ちながら、熟達した映像表現と、大人の遊び心を持ち合わせた本作は、第62回カンヌ国際映画祭コンペ部門に出品。アラン・レネ芸術の一つの到達点として世界の映画人を虜にし、審査員特別賞、特別功労賞をダブル受賞しました。

フランス現代文学の雄、
クリスチャン・ガイイ原作

マルグリット・デュラス、アラン・ロブ=グリエ…、時代時代の先鋭的な文学者と組んできた監督が、原作に選んだのは、「さいごの恋」で知られるフランス現代文学を代表する作家クリスチャン・ガイイのベストセラー小説。独特の文章のリズム、繊細な心理描写で世界中にファンをもつガイイの世界を、見事に映像化しています。撮影は『夏時間の庭』でオリヴィエ・アサイヤス、『クリスマス・ストーリー』他でアルノー・デプレシャンと組んできたエリック・ゴーティエ。主演はアンドレ・デュソリエ、サビーヌ・アゼマという近年のレネ作品では御馴染みのコンビ。レネ監督の大ファンと言って憚らないマチュー・アルマリック、『ココ・アヴァン・シャネル』のエマニュエル・ドゥヴォスが脇を固めます。本作は、映画を観ることの極上の快楽を、きっとあなたの心に甦らせてくれることでしょう。
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LES HERBES FOLLES - © F Comme Film - Christophe Jeauffroy - Francine Deroudille - THIERRY VALLETOUX / Illustration Blutch