【男】
腕時計の修理のためにショッピングセンターを訪れていたジョルジュは、駐車場に捨てられていた財布を偶然拾う。中を確認すると、お金はすでに抜き取られていたが、小型飛行機の操縦免許証が入っていた。その女性の名はマルグリット・ミュイール。免許証に張られた、ゴーグルを頭の上に乗せたマルグリットの写真を見たジョルジュの中で、何かが弾けた。財布をどのようにして彼女に届けようかと、ジョルジュはあれこれと夢想する。自宅に戻っても浮き足立って、落ち着きがない。そんな夫を心配した妻に促され、ジョルジュはしぶしぶ警察に行き、煮え切らない思いのまま、担当刑事のベルナールに財布を届ける。
翌日、子供たちと食卓を囲んでいると、電話が鳴る。マルグリットからだった。
「何でしょう?」―「お礼を」
「それだけ?」―「ほかに何を?」
「"会いたい"とか」―「必要を感じないわ」
「がっかりだ」。
電話を切ったジョルジュは、その対応が紳士的ではなかったことを後悔し、謝罪の気持ちを綴った手紙をしたため、翌日、彼女の自宅を探し当てポストに投函する。しかし、投函した傍から再び後悔し、手紙を取り戻そうとするのだが、ポストには鍵がかかっていてやむなく諦める。数日後、手紙を読んだ彼女から気にしてないという内容の返事が来ると、ジョルジュは再び手紙を書いた。自分の人生について。昔、飛行機を操縦することが夢だったこと。父も同じ夢を持っていたこと・・・。しかし、彼女からの返事はなかった。
ジョルジュは、その後、毎晩のように彼女に電話をし、留守電にメッセージを残す。「話がしたい。いろんな話がしたい。中身のある話を」。ある晩、彼女自身が電話に出た。留守電をセットするのを忘れていたのだ。しかし、これ以上連絡してくれるなと言われてしまう。拒絶されたジョルジュは、彼女の車のタイヤを切り裂き、手紙を残す。「君を引き止め、話がしたかった。パンクをさせたのは私であることを知ってほしい―」。彼女は警察に相談することにした。
【女】
財布を拾った男から脅迫を受けているとマルグリットから通報を受けたベルナール刑事は、後日、同僚と共にジョルジュの家を訪れる。刑事からの詰問に彼は激しく動揺し、自分を奇人扱いするマルグリットに深く傷ついた。ベルナールはそんな彼を宥め、彼女への連絡を断つよう優しく諌める。それ以降、ジョルジュからの連絡が途絶えたマルグリットは、気の毒なことをしたのではないかと、後悔していた。ある晩、意を決してジョルジュに電話すると、彼の妻が出た。夫から事情を聴いていた妻から彼の外出先を聞き出したマルグリットは、すぐさま急行し、まったく面識のない男を探した。しばらくしてから、映画館から出てくる男を視界に捉える。彼こそが財布を拾った男だと確信したマルグリットは、彼に駆け寄る。
ジョルジュは、突然現れたマルグリットに驚く。
「愛の告白?」―「違うわ」
「何?」―「ただ心配になっただけ」
「確かに愛さなくても心配はできる」―「そうね」
「用件は?」―「コーヒーを」
二人は近くのコーヒー店に入り、飛行機の話をした。そして、マルグリットは奥さんと二人で飛行場に来ないかと誘うと、ジョルジュは憤慨し、お金を置いてその場を去ってしまった。
【男と女】
翌日、マルグリットは歯科医の仕事を休んだ。そして、ジョルジュのことを考えていた。ただただぼんやりと。驚いたことに、彼への思いは日に日に強くなっていた。気持ちを抑えきれなくなったマルグリットはジョルジュに電話すると、再び妻が電話に出た。二人で話がしたいと願い出たマルグリットは、仕事の同僚で親友のジョゼファの運転で、ジョルジュの家へと向かった。ジョゼファを車に残し、マルグリットが家に招き入れられてしばらくすると、ジョルジュが帰宅してきた。ジョルジュは、家の前に乱暴に停めた車の運転席にすわるジョゼファに詰め寄ると、遊び心からか、駆け引きからか、彼女に甘い言葉をかけ、接吻をした。
ジョゼファとともに自宅の中に入ると、そこにはマルグリットの姿があった。ジョルジュは、彼女の突然の来訪に驚き、有無も言わさず家から追い出す。ジョルジュに拒絶されたマルグリットは、以降、落ち着かない日々を送る。仕事も手がつかなくなった彼女は、ジョゼファを介して、もう一度ジョルジュと妻を飛行場に招待する。二人は申し出を受け入れ、ジョゼファと共にマルグリットが待つ飛行場へと向かった。
飛行場に着いたジョルジュは、滑走路の脇に停まっていたセスナの数と種類に心躍った。しばらくしてから、ジョルジュは二人を残し、トイレに向かった。その帰りしな、偶然一人でいたマルグリットと鉢合わせする。目と目があった瞬間、二人は歩み寄り、口づけをかわす。
こうして二人の恋が始まった・・・かのように思えたのだったが・・・。